FENDER PRECISION BASS 1968
フェンダー・プレシジョンベース・1968年製について

このページでは、現在、3本の68年製をメインで使用している私にとって、
心の底から愛すべきフェンダー・プレシジョン・ベース・1968年製について、思う所を述べたいと思う。

私個人の意見だと、ベースはまず弾きやすさである。次に音の質だと思っている。68年製のプレシジョンベースは、弾きやすさ・音の質に関しても本当に素晴らしく、それ以前でもそれ以降でも駄目なのだ。
そんな想いを込めて、1968年製プレシジョンベースの素晴らしさ、68年製だけが持つ製造の変貌、68年製のクセ者っぷり、などを、このページに書きたいと思う。



ロゴの変更について
フェンダー社1968年製造楽器で、最も有名な点が、「ブラックトランジションロゴ」の導入である。
プレシジョンベースにおいても、68年夏頃に、「シルバートランジションロゴ」から「ブラックトランジションロゴ」へ変更された。



ネックシェイプについて
68年製の大きな違いは、プレシジョンベースが1958年にモデルチェンジされてから1967年まで続いていた「Cシェイプネック」から「Bシェイプネック」へ変更された点である。
(その名残なのか、68年製の極めて初期には、「Cシェイプネック」も存在する)
(「Cシェイプ」や「Bシェイプ」といった言葉は、フェンダー社の公式な用語では無く、刻印されたネックデイトから、一般的に呼ばれている)
68年製の「Bシェイプネック」は、ネックの製造時期によって微妙に変わっていく。
68年の比較的初期の「Bシェイプ」は「Cシェイプ」の名残を感じる多少薄い感じ。
中期頃の「Bシェイプ」は、少しふっくらした感じ。
後期の「Bシェイプ」は、かなりふっくらした感じではあるが、69年製「Bシェイプ」程の太さは無く、最も私好みな感じでとても弾きやすい。
個人的な感想を言うと、時期が変わって多少のネックの太さが変わっても68年製の「Bシェイプネック」がベストであり、69年製以降のネックは弾きづらさを感じる。
もっと言えば、「Cシェイプネック」は、私にとっては苦痛でしかないのである。




ネックフィニッシュについて
68年は、ネックのラッカーフィニッシュの最終年としても知られる。
「シルバートランジションロゴ」時期のロットに採用されたネックのフィニッシュは、「ラッカー塗装」だが、「ブラックトランジションロゴ」以降は、ヘッドの表面部を除き全て「ポリウレタン塗装」に変更された(ヘッド表面部(ロゴ側)は、引き続きラッカー塗装がされている)。
ネックのラッカー塗装は、経年変化に弱く、長く弾き続けるとラッカーが剥がれ始め、下地のメイプル材が出てくるといった不具合が生じていた・・・(ベースプレイヤーの中には、この下地が出た状態が一番弾き良い、と言う方々もおられる)。それを改良したものが、ポリウレタン塗装の導入だったのである。




ボディフィニッシュについて
68年製のボディ塗装は、下地に透明なポリウレタンを塗装し、その後ラッカーフィニッシュを施す最初の年として知られる。
これにより、弦の振動に対するボディの鳴りは若干押さえられるが、ピックアップを通してアンプから出力される音質は申し分無いものになっていると思う。
この塗装方法は、その後まで続き、フェンダー社の楽器を象徴する一部分となっている。




ブリッジについて
68年製の全てのベースにおいて、ブリッジが変更になった。
スパイラルに切られたサドルから、ストレートに弦を載せるタイプのサドルへ変更になった。この変更は、「シルバートランジションロゴ」時期の途中で変更されたもの。ロゴの変更時期と同じくして、同時にブリッジの変更が行われた訳ではない。



ペグについて
(68年製初期のロットには「クルーソン逆巻きペグ」も確認されているが)
68年製の特徴として、中期頃までのプレシジョンには、「フェンダー・パドルペグ」が搭載された。パドルペグがプレシジョンベースに付けられたのは、この年のみである。
(パドルペグは、66年から68年までの「フェンダー・ジャズ・ベース」に採用されており、結果、パドルペグの最終年としても知られる)
68年「ブラックトランジションロゴ」時期から、フェンダー社クローバー型ペグに変更された。
(いずれも「Fender®」では無く「Fender」と、「®」が抜けたロゴがペグ本体に刻印されている)





68年製プレシジョンベースを総括すると。

「シルバートランジションロゴ」 → 「ブラックロゴ」

「Cシェイプネック」 → 「Bシェイプネック」

「スパイラル・サドル・ブリッジ」 → 「ストレートタイプ・サドル・ブリッジ」

「オールラッカー塗装のネック」 → 「ポリウレタン塗装のネック」

「オールラッカー塗装のボディ」 → 「ポリウレタン塗装の下地にラッカー塗装で着色のボディ」

「クルーソン逆巻きペグ」 → 「フェンダーパドルペグ」 → 「フェンダークローバー型ペグ」


他にも「貼りメイプル仕様のネック」という個体も存在する。



たった1年の間に、この様に分類され、それぞれで重なっている部分も合わせると、少なくとも3種類が存在する訳だ。
加えて、1968年という年は「テレキャスター・ベース」の製作が開始された年でもある。
圧倒的に他の年と比べて楽器の製作本数の少ない年である1968年。これは一説に、ベトナム戦争が影響しているとも言われている。


この様に、1968年製のフェンダープレシジョンベースには、様々な種類が混在する事となり、貴方が手にした68年製のプレシジョンベースが、他の68年製と全く同一の仕様であるとは限らない。
実際に筆者も、68年製ブラックトランジションロゴのプレシジョンベースを入手するのに、随分と時間と苦労を要した経験がある。(数が少ない事の象徴だと思う)


私も1本所有しているが、68年製において、ボディの下地に白のポリウレタンを塗り、その上から「木目」を描き、その後サンバーストに色づけされた個体も確認されている(いわゆる「マルチレイヤー」とは意味合いが異なる)。
何故、この様な仕様になっているのかは不明だが、この個体の共通項は、ボディが軽く作られている為、ベース本体の重量はいずれも、3.5kg〜4.0kgである。
参照:
1968 ORIG MAPLE CAP FENDER PRECISION BASS BEYOND RARE


1965年〜66年には大量に楽器を作りまくったCBSフェンダー社が、1968年には、ごく数千本のギターやベースしか作らなかった、という事を考えても、1968年製のプレシジョンベースは、それぞれの仕様の違いによるそれぞれの希少価値を感じるのだ。
2015年現在、「ムスタング」などの安く買えるオールドフェンダーも価格の高騰化に有り、いずれは入手しづらくなる存在になりつつあるという・・・。