OTHER BASSES
Paul McCartney's
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ここから先は、ポールがヘフナー以外に
使用したベースについて述べたいと思う。




Rickenbacker 4001S '64



Rickenbacker 4001S '64

これら3本のベースは、全く同一の“リッケンバッカー 4001S”である。
アメリカ・リッケンバッカー社がビートルズへ楽器を贈呈したのは、64年2月初のアメリカ公演の際である。
ニューヨークのサボイ・ホテルで試奏したビートルズのうち、ジョンとジョージは、以前からリッケンのギターを愛用していたので快く応じたのだが、ポールだけは拒否したそうである。が翌65年8月のアメリカ公演の際、ロサンジェルスのホテルにて、アンプに繋がれた“4001S”を試奏したポールは、その場で気に入り、受け取ったそうである。
64年2月に受け取りを拒否した“リッケンバッカー・ベース”が、どんなモデルだったか等は明らかにされていないが、ジョン、ジョージに手渡された“リッケンバッカー”と同じ「1963年製」だった事は確かだと思われる。


ポールの“オリジナル”リッケンバッカー 4001のボディカラーは、“ファイヤー・グロウ”と呼ばれる“赤のサンバースト”で、ボディ材はメープルを使用。このボディは、ネックまで1本の木で通じている、いわゆる“スルーネック”と呼ばれるものである。ヘッドはそのメイプルをローズ材が挟む様な構成。右利き用を流用した為、通常の左利き用とは逆になっている。
ボディにバインディングは無く、ボディ裏側の一部はコンター加工されている。フィンガーボード(指板)はローズウッド(恐らくハカランダ)。

ピックアップは2個。ネック寄りに配置されたフロント・ピックアップと、ボディ中心に配置されたリア・ピックアップである。
フロントピックアップは、“トースター・トップ”と呼ばれる(トースターの形に似ている事が由来の俗称)6個のボビン構成のピックアップ(ギター用を流用した為か?)。
リアピックアップには“ホースシュー・ピックアップ”と呼ばれるタイプ。ピックアップカバーが磁界を担っている為、外すと(外せない仕様になっているが)音が出なくなる。

コントロール部は、それぞれのピックアップの2トーンコントロール(上段)、それぞれのピックアップの2ヴォリューム(下段)の計4個のノブと、3ポジションのピックアップセレクターのシステムで構成されている。

ブリッジは、ダイキャスト製でクロームメッキされたテイルピースに、ミュート機能が付属されているもの。
ペグは、当時のフェンダー社ジャズ・ベース同様、逆廻しで調弦するタイプで、クルーソン社製のものだ。


まず最初の白黒画像のリッケンであるが(カラーでないのが非常に残念・・・)、この写真は66年の日本公演の際、“日本武道館”の控え室で撮影されたもの。これは、ヘフナーベースのサブ用としてポールが持ってきたもので、武道館のステージにも置かれていた。
もしこの時ヘフナーにトラブルがあったならば、私達日本人は、最初にこの“リッケンを弾くポールの姿”を観る事が出来たのかも知れない・・・。がしかし76年の公演中止、80年のウィングスの公演がポールの大麻不法所持の現行犯逮捕された事由により公演は中止、私達日本人は、ポールが“リッケン”を弾く姿を生で観る事は出来なかった・・・。

下段左側の画像は、「史上初めて世界5大陸を結び、あらゆる土地の人達を人類と対面させる」“Our World”という番組の中でビートルズがレコーディングセッションの模様を世界に見せるという放送の為のリハーサルシーンである。この時ビートルズが演奏した曲は、“All Your Need Is Love (愛こそはすべて)”である。この放送は、BBC内部の“スペース・ブースター”の“アーリー・バード”と人工衛星の“ラナ・バード”及び、ATS/Bを経由して全世界に映像を送った。日本での放送時間は、午前5時半頃だったそうである。
この曲の中で使用されたリッケンバッカー 4001は、オリジナルの塗装の上からサイケデリックなペイントが施してある。
他に、TV番組“MAGICAL MYSTERY TOUR”とシングルの“Hello Goodbye”のPV、2003年の"LET IT BE NAKED"リリース時の"Get Back"PV(こちらはネック裏側のみ)でも確認する事が出来る。

下段右側の画像は、ポールが“ウィングス”時代にメインで使用していたリッケンで、例のサイケなペイントは自ら剥離した様である。映画"LET IT BE"の"Two Of Us"で、ヘフナーの隣に置かれたリッケンの映像が映し出されるが、この時点でボディ・ヘッド部の塗装が剥がされている事から、"LET IT BE SESSION"中に塗装を剥がした事が推測される・・・。"Get Back 2003PV"で確認出来るリッケンのネック裏側はオリジナル塗装のままだ・・・。
塗装は綺麗に剥がされておらず、ピックガードの下は、元の塗装が多少残っていると言われている。剥離後はラッカー等の塗られていない殆ど無地の状態。その後「牛骨ナット」」「ゼロフレット」が付けられ、ピックガードも新しく作り直されており(ボディペインティングの一部はピックガードにも及んでいた)、ボディの角の部分も、幾度かに渡って少しずつ削られた様である(理由は不明・・・)。ピックアップも全く別の物に交換された。ポールは、「70年代初期製のリッケンバッカー4001」も所有していたと言われる。パーツ取り用との事で詳細は不明だが、この際にピックアップを交換した事が予想される。
ポールの後ろ左側に「64年製リッケンバッカー」、右側に「70年代初期製リッケンバッカー」

また、01年の“Driving Rain”レコーディングの際、ポールはこのリッケンを使うつもりでいたが、全く使える状態では無かったらしい。新たにリッケンバッカー“4001C64S”という「Cシリーズ」と呼ばれる当時最新のベースを購入したという噂がある。色はMG(ナチュラル)との事・・・。


楽屋裏にて
66年頃から、ライヴ用のサブ・ベースとして
リッケンバッカーを用意していた



Fender Jazz Bass '68
  
Fender Jazz Bass '68

68年、念願叶ったのか、遂にポールは憧れのフェンダー社製“ジャズ・ベース”を購入した。
右利き用、左利き用両方のジャズベースを68年に同時に購入している(右利き用は、映画"LET IT BE"のアウトテイクフィルムで確認出来る)。
右利き用ジャズベースは主にジョージが使用した。その後、デニー・レーン、ヘイミッシュ・スチュアートにも使わせており、やはりポールのお気に入りのベースである事には間違い無いのである。

1948年からの歴史を持つアメリカ・フェンダー社(Fender)は、1952年に最初のエレクトリックベース、“プレシジョン・ベース”を発表している。これは、ウッドベースに対抗すべく、フレット付きベースを考案し、文字通り“正確な音の出るベース”として、現在でも多くのミュージシャンが愛用している。
一方の“ジャズ・ベース”、こちらは60年に発表。

ポールが購入したジャズベースは、それぞれのピックアップに対応した2個のヴォリューム、1個のマスター・トーン・コントロールで構成されている。

ピックアップは、初期の“プレシジョン・ベース”のピックアップに近い、“シングルコイル・ピックアップ”を使用している。ポールピースは、1本の弦に対して2個のポールピースで弦の振動を拾うシステムになっている。その為、コントローラーの調整次第に寄っては、太くて腰のあるサウンドも出す事が可能である。

ボディの材はこの頃の物であれば恐らくアルダー材、ネックはメイプル、フィンガーボードはローズウッドである。
なお、フィンガーボードのインレイであるが、67年以降のジャズ・ベースは、“ブロック・ポジション・マーク”が採用されており、オリジナルの“ドット・マーク”とは異なる。


アルバム“ABBEY ROAD”の“Here Comes The Sun”のベースは、このジャズベースで弾いている。
ヘフナーでもない、リッケンでもない、ビートルズの曲では聴いた事の無いベースの音である。
なお、“Golden Slumbers”のベースは、ジョージによるジャズベース使用の演奏の可能性が高い。

ウィングス時代は、リッケンバッカーのサブ用として、ステージ脇に置かれていた。



YAMAHA BB-1200 '78

YAMAHA BB-1200 '78

ポールが使用した最初の日本製の楽器であり、ヤマハがポールに贈呈したベースである。
ポールはこのベースを78年から使用しており、当時はメインベースとして使用していた。
予定されていた80年の日本公演の際でも恐らくメインベースとして使用されていた事には間違いない・・・。
81年以降は、PV、その他フィルム等でも見かけなくなる。現在も使用はしていない様だ・・・。

このベースもリッケンバッカー4001と同様な構造をしており、ボディ中央からネックまでがスルーネック構造という、メイプル材一本の木で通されている。ネックはメイプルとマホガニーの多重層(5ピース)仕様。ボディはアルダー材を使用し、軽くて弾きやすく、強度のある、独特のスタイルに仕上げた様だ。(多重構造の創りは当時のヤマハのお家芸でもあったが・・・)

ピックアップは、アメリカ・フェンダー社の“プレシジョン・ベース”と同じ“スプリット・ピックアップ”を使用しているが、数あるYAMAHA BBシリーズの中でも、この“BB-1200”のみ、ピックアップの設置が逆になっている。
通常、1弦と2弦用のポールピースは、ブリッジ寄りに設置されているが、このBB-1200のみ、ネック寄りに設置されている。これは、3,4弦よりも細い1弦と2弦の音の細さを解消する為の工夫と思われる。

その後、ヤマハは、BBシリーズとして、BB-X、2000、3000、5000(5弦ベース)、その他数種を発表している。現在でも人気のあるベースだ。



WAL 5Strings BASS
WAL 5Strings BASS

89年のポール・マッカートニー・ワールドツアーから使い始めたポールにとっての初の多弦ベースである。“WAL社”はイギリスのハンドメイドギターメーカー。

ポールがロンドンの“ドックランド・スタジオ”でアルバム“BACK IN THE USSR”のレコーディング中、後の“FLOWERS IN THE DIRT”でプロデュースをする事になる“トレヴァー・ホーン”がこの“WALの5弦ベース”を持ってスタジオに現れ、ポールが興味を示し、同じ5弦ベースを購入した、という事らしい。
(何かと“貰い物”で済ませている様に言われてしまうポールだが、ちゃんと自分のマネーで買っている。ただし“59年製レス・ポール”に関しては、まだリック・ニールセンへの支払いが終わっていないという噂だが・・・)


まず仕様であるが、ボディは“ウォルナット材”とマホガニー材の3ピース構造。ネックもメイプルとマホガニーの5ピースネック。フィンガーボードはローズ・ウッドを使用した24フレット仕様。ボディとネックはボルトによる固着(デタッチャブル)式でセットされている。ネックのアジャストロッド調整は、ボディ側に剔られた溝からロッド調整出来る様になっている。

ブリッジはダイキャスト製。ストラップピンは、最近のポール使用のヘフナー同様、ロック式ストラップピンを採用している。

ピックアップはハムバッキングタイプで、“G&L社”のピックアップと同様のシステムになっていると思われる。ピックアップの配置は、中央に配置されたフロント・ピックアップとブリッジよりに配置されたリア・ピックアップの2ピックアップ。

ボディ内部は、9ボルトバッテリーを使用したプリアンプを内蔵する、いわゆる“アクティブ・タイプ”といわれるシステムになっており、ベースサウンドの高音質化を可能にする為の工夫がなされている。

4個のコントロール部だが、フロント、リアの両ピックアップのヴォリューム、ベースカット、ハイカット、のシステムになっていると思われる。ピックアップ・セレクターが設置されていない為、この様なセッティングになっていると思われる。


とにかく、この“WAL 5Strings BASS”に関する資料が、私の手元には全く無いので、全てが勝手な推測であるが、恐らくこの様な仕様になっていると思われる・・・。


そして、何よりも誰もが驚いたであろう事が、「ポールが5弦ベースを使うなんて!」という事では無かったかと思う・・・。だが、アルバム“FLOWERS IN THE DIRT”で数曲このベースを使用して弾いた曲を聴くと、そこにはポールのセンスの良さも絶対的なのだが、サウンド面で、質の高いイメージを曲に与える事に成功している様に思える。やはり大正解だったのでは、と私は思う・・・。
ビートルズ再結成シングル“Free As A Bird”でも使用された。現代版ビートルズのイメージにはピッタリだったと思う!



WOODBASS

WOODBASS

このベースに関しての詳しい事については未だ不明な点が多いので、後々UPする事になるが、まず解っている事から・・・。

このベースは、エルヴィス・プレスリーのバンドのベーシスト、ビル・ブラックが使用していたベースで、色は(画像では判りづらいかも知れないが)ゴールド。

ポールの亡き前妻、リンダがポールにプレゼントしたウッドベースである。
ポールのインタビュービデオなどではお馴染みのベースだ。右利き用に弦を張っているが、ただの飾り物ではない。96年のビートルズ再結成シングル“Real Love”でこのウッドベースを全編で使用している。