RECORDING

レコーディングに関する考察

ビートルズのレコーディングセッションの記録本等の中で、
私が不明に思った点などを、私なりの解釈で書いてみた。


“Dear Prudence”

この曲のレコーディングに関する書籍などを見ると、ドラムに関しては全てポールが演奏していると書かれているものが多いが、これは、リンゴが叩いている。
ポールのドラムは、左側チャンネルに2分53秒の部分で一瞬だけ聴くことができる。

また、ポールのベースもパンチ・イン、アウトで録音し直してある(2分51秒〜エンディングまで)。
この中間部分のドラムに関しても(おそらく)録り直し(2分47秒〜エンディングまで)が繰り返されていると思われる。

マルチトラックで録られた音は、マルチトラックで別の音に差し替えることが可能であり、最初にトライデント・スタジオで録られたポールのドラムは、アビィ・ロード・スタジオでリンゴのドラムに差し替えられたと思われる。もちろんリンゴはヘッドフォンでポールのドラムを聴きながら叩いているので、おそらくはフリューゲルホルン等の音を消して録音されたに違いない。 残されたポールのドラムのトラックには、ジョージのギターが録音されて消されてしまったのではないか・・・?。

この曲のレコーディング作業にどのような経緯があって進められていたか等については、この曲に関するあらゆる書籍を見ても完全な形では明らかにされてはいない。なぜならこの曲のレコーディングには、“テイク1”しか存在していないのに、8トラック全てのポジションに、かなりの数の音が完全な形で録音されている。音は、消されては録音されて、いつしかこの30年の間に忘れ去られてしまった事が多かったのではないか。また、その”消された音”に問題があったのではないかと思う。


先日、とあるビートルズ専門ショップの方に、この説明をしつつ曲を聴いて頂く機会が有ったので、感想を聞いてみたのですが、その方は私の意見に同意して下さいました。
間違った解釈をされそうな本が世に出ていては、何年先になっても、不正確な情報だけが飛び交うばかりです。
もし、「ジャコ・パストリアスの“Crisis”のベースはシーケンサーを使っている」と、どなたか偉い方が仰ったなら、もう誰しもが信じてしまうばかりです。もちろんこの曲のベースはジャコ自身が弾いたベースですので、どうかお間違いなく・・・。



“Can't Buy Me Love”
この曲は4テイクで取り終えたと言われているが、それにしては不審な点が少しだけある。
基本的にCD“A HAED DAY'S NIGHT”とシングルCD等に含まれる音源は全く同一のものである。いわゆる当時のモノラルヴァージョンと同じ音源・・・。
しかし、“CD「赤盤」”“THE BEATLES 1”“(または当時のステレオLP”)(いずれもステレオ収録)の場合、次のポイントが不自然に聴こえる。
1分09秒の部分と1分29秒の部分(CD「赤盤」のタイムより)で、何らかの事情により、他のテープを繋ぎ合わせた跡がある。何故ならば、突然音質が悪くなるからだ・・・。

順を追って説明すると・・・、
トラック1:ドラム、ベース、ギター(ジョン)
トラック2:ギター(ジョージ)
トラック3:ヴォーカル1
トラック4:ヴォーカル2

となる。この後、ギターソロを重ねるのだが、この状態では重ねられないので、これら4トラックを2トラックへ編集しなくてはならない。そうするとこうなる。

トラック1:ドラム、ベース、ギター(ジョン)、ポールのヴォーカル1&2
トラック2:ギター(ジョージ)、ポールのヴォーカル1&2
トラック3:ギターソロ1
トラック4:ギターソロ2
(仮にこれを、“Can't Buy Me Love:テイク5”と呼ぶ事にする)
(ギターソロは、1&2共にジョージ)
(トラック1と2にポールのヴォーカルが2種類入っているのは、ヴォーカルをセンターに定位させる為だ)

このテイク5をそのままリミックスしたものが、モノラルヴァージョンとなる。

アナログテープは、音を重ねれば重ねる程、音質は悪くなっていく。ステレオ・セパレーションで聴くとなると、音の悪さは目立ちやすい。
これはあくまでも仮説だが、ステレオミックスの際、テイク4を基本としているが、ギターソロの部分(先程のタイムの位置)だけを、テイク5と繋ぎ合わせたのでは無いか?。
そうすれば、音質をクリアに保つ事が幾らかは可能だからだ・・・。
これらの要素により、モノミックスとステレオミックスでは、若干の差が発生している。(詳細は「REMIX」の項参照)



“All You Need Is Love”
記録によると、この曲のリリース版のテイクNo.は、テイク58。全てが生演奏の様に聴こえるこの曲は、ベーシックトラック録りから始まり、入念なリハーサルが行われた後に正規の(と言うよりオンエア用の)レコーディングが行われた。
このレコーディングのトラック割りは、

トラック1;ベーシックトラック (ドラム、バイオリン、Wベース、ハープシコード、ピアノ、バンジョー、パーカッション、サビのジョンのヴォーカルとポール・ジョージのコーラス)
トラック2:ドラム、ベース、リードギター
トラック3:オーケストラ
トラック4:ジョンのリードヴォーカル、ポール・ジョージのコーラス

という事になっている。(テイク58の表より)(トラック2〜4は当日のライヴレコーディング)

が、これらはトラックダウン後の話であり、レコーディング時は違った筈である。恐らくトラブルをなるべく避ける為、4トラックレコーダー2台をシンクロさせていた筈である。
ジョージの弾くギターソロは、モノ版ではステレオ版よりもフェイドアウトが早い。モノ版では極端なフランジング処理がされているのに対して、ステレオ版ではフランジング処理はされていない。
もし仮に、ギターソロにフランジング処理をすると、同じトラックに入っているドラム・ベースも同様にフランジャーが掛かってしまうし、フェイドアウトも同様にドラム・ベースに対して影響を与えてしまう。したがって、上記の4つのトラック割りは不可解に思える。

仮にこのレコーディングが、4トラックレコーダー2台のシンクロ録音だとしたら、

トラック1:ベーシックトラック (ドラム、バイオリン、Wベース、ハープシコード、ピアノ、バンジョー、パーカッション、サビのジョンのヴォーカルとポール・ジョージのコーラス)
トラック2:ドラム
トラック3:ベース
トラック4:同期信号
トラック5:リードギター
トラック6:バイオリン・ビオラ・チェロ・ブラス・アコーディオン
トラック7:ポール・ジョージのコーラス
トラック8:ジョンのリードヴォーカル

となる。(が、トラック割りは、必ずしもこうでは無い)

この後、イントロのスネアロールをトラック2にオーバーダブ。トラック7にサビの部分のジョンのヴォーカル(その為、ポールとジョージのサビのコーラスは、コーダの部分を除き全て消されている。唯一残ったのはポールの“All together now. Everyone” )をオーバーダブ。
これをミックスダウンした物が、一番上の4トラックであろう・・・。理由は、リミックス(モノ版)を容易にする為。
68年10月29日にステレオミックスが作成されたが、その際にはシンクロさせた4トラック2台で録られたテープが使用されていると思われる。
99年に発売された“YELLOW SUBMARINE SONGTRACK”のオーケストラのパンニングは見事だ。とても同一トラックに収められている音源とは思えないミックスを行っている。

また、この日、ジョージは「エピフォンのカジノを弾いた」と言われているが、実際はサイケデリックな彩色を施したストラトを弾いている(ビデオ・アンソロジーではCGテクノロジーを使い、映像をカラー化してあるが、ジョージのサイケ・ストラトは、横から見るとソニックブルー、ウラから見るとナチュラルフィニッシュの様に見える・・・。これは配色ミスと思われる)。



“Let It Be”

Let It Be に関して言えば、まずあらゆる本に載せられている事で、 ”ジョンがベースを弾いていた”、ということである。 この曲は、映画「Let It Be」の収録に於いてほとんどのテイクがフィルムに残されているが、そのどのテイクを見てもジョンがベースを弾いており アルバム“Let It Be”、もしくは、シングル “Let It Be”のヴァージョンに関してもジョンがベースを弾いている印象を与えてしまっているらしい。 もちろんすべての人がそう思っているわけではないだろうが、レコーディングをまとめた本などには、そう書かれており、また、そう信じてしまう人もいるはずである。

ベーシック録り段階では(フィルム上では、最終ヴァージョン)ジョンがベースを弾いていた。例の“FenderO”である。
が、'70年の1月に、コーラスやブラスのレコーディングと共にポールのベースがオーヴァーダビングされた。
このベースの音には、ベーシストが持つ独特の感性が感じられるし、また、この音は、間違いなくホフナーベースの音である。 フェンダーの6弦ベースやジャズ・ベースでは、この音は絶対に出ない。

(シングル・ヴァージョンをリミックスしたジョージ・マーティンは、この曲のベース・トラックのフェーダーを極端に下げてリミックスしているが、これは恐らく、映画ヴァージョンとの混同を避ける為の考えだと思われる。このシングル・ヴァージョンの“Let It Be”のベースの音量は、ビートルズの全ての曲と比べてもベースの音量はかなり小さい)


この曲に限らず、「ジョンがベースを弾いている」と書かれてある書籍の中には、実際には、ポールが弾いているものが存在する。「Helter Skelter」などもそうである。これは“リッケン・バッカー”を使用しており、「Let It Be」と同様、フェンダー6弦ベースでは、物理的に演奏は、とても無理である。



“Don't Pass Me By”

この曲での、ドラムとピアノの演奏者は、逆である。
ポールがドラムで、ピアノがリンゴである。ベーシック録りで、作曲者のリンゴがドラムで、ピアノがポールだとは、あまり考えたくない・・・。この曲のリンゴのピアノは、映画「Let It Be」の中で演奏される「Octopus's Garden」のピアノにほぼ似ており、とてもポールが演奏しているものとは思えない・・・。(もっとも、イントロのピアノは、リンゴではないが・・・)

通常、レコーディングの場合、作曲者がコード楽器を演奏する事が多い。例えリンゴがドラマーであったとしても、この曲のレコーディングで、リンゴがピアノを演奏していた可能性は充分に考えられる。特にリハーサルなどでは、作曲者がコード進行を指示しなければならないので、リハーサルでもリンゴがピアノを演奏していた可能性は大きい。ビートルズの様に、リハーサルからそのままレコーディングに突入してしまう様なバンドでは、演奏者が逆になる事はあり得るのである。



“Please Please Me”

この曲に関する殆どの本に、「“Please Please Me”のステレオ・ヴァージョンは、ジョンが歌詞を間違って歌っており、ラストの“Come on”は、笑いながら歌っている・・・」と書かれてある。だが、これは本当だったのだろうか・・・。

この曲には、ステレオとモノラルで、2通りのヴァージョンがある(この曲に限らず、ビートルズのアルバムには、ステレオ盤とモノラル盤で、異なるミックスのヴァージョンが存在するが・・・)。この“Please Please Me”のステレオ盤では、ジョンが、ラストのヴァースの2行目を、「Why do I never even try girl」と間違って歌っており、その直後の「Come on」を笑いながら歌っているというのである・・・。この「Come on」なのだが、私には、ジョンが笑いながら歌っているようには、全く聞こえない・・・。どちらかと言えば、“おどけている様な・・・”“ふざけている様な”、そんな感じにしか聞こえないのである・・・。

この曲の1番の歌詞の部分をよく聴いてみると、歌詞の2行目で、ポールが、「Why do you never even try girl」と歌っている・・・。つまり間違っているのはポールの方だ!。ジョンはこのポールの歌詞の間違いを意識し、わざとラストのヴァースを間違って歌ってみせたのかも知れない・・・。そして「Come on」を“おどけて”歌ったのである・・・。

この曲のモノラル・ヴァージョンは、テープを編集して複数のテイクから拾っているので、そういった歌詞を間違った様な部分は確認出来ないが、このステレオ・ヴァージョンは、ハーモニカの(モノラルミックスからの)オーバー・ダビングを除けば、全くのランスルーである・・・。ジョージ・マーティン・チームは、この“間違ったステレオ・ヴァージョン”を、わざとLPに収録した可能性は充分に考えられる・・・。

(注:このステレオミックスは、「テイク16,17,18の複数テイクを、編集作業により作成された」とあるが、実際は恐らくテイク16がベースになっているものと思われる)
(詳しくはリミックスの項参照)



“The End”

マーク・ルウィソーン氏が書いた「ビートルズ/レコーディング・セッション」という本に、「69年7月23日、“The End”のドラムソロが録音された際、ビートルズのレコーディングでは初めて、ドラムのみで2トラックを割いてレコーディングされた」と書かれてある。が、そうすると、“レット・イット・ビー・セッション”はどうなるのだろう・・・。レット・イット・ビー・セッションでは、ドラムには1トラックしか使わなかったと言う事なのだろうか・・・。
アップル・スタジオに移ってからの“レット・イット・ビー”レコーディング・セッションは、EMI社所有の8トラックレコーダーで録音されており、ドラムに関しては、殆どのテイクを2トラック使用している。正規発売されなかったアルバム“Get Back”を聴けばよく判るのだが、ドラムは、スネア、タムタムとハイハットが右側、バスドラとシンバルが左側にミックスされている・・・。
その半年後の“The End”なのだから、初めてでは無い筈・・・。
正規発売されなかったアルバム“Get Back”を聴けば判る筈である・・・。
いや、70年にステレオ化された“Get Back(又はDon't Let Me Down)”を聴けば、ドラムに2トラック使われていた事くらい誰にでも判る。そう、これは簡単に手に入るレコードだもの・・・。
マークさん?、・・・。“The End”が初めてじゃ無いですよ・・・。